発刊にあたり

2012年12月、インフラの維持管理に関わる者にとって二つの大きな出来事があった。

ひとつは言うまでもなく、12月2日午前8時頃、中央高速道路笹子トンネル上り線のコンクリート製天井版が130mにわたって落下し、走行中の車数台が巻き込まれて死傷者を出した事故である。供用後35年経過し、アンカーボルトの接着剤が劣化したことが原因と報じられているが、30年を超えると様々な老朽化現象が顕在化するという経験則がまた確かめられることになった。

もう一つは同じく12月16日に投開票が行われた衆議院総選挙の結果、国土の強靱化に向けた公共投資の重要性を訴えた党が大勝したことである。その中で高度経済成長期に大量に建設されたインフラの老朽化対策が大きく取り上げられた。新しい政権は十数年ぶりに、インフラの防災機能の強化と老朽化対策に主眼を置いた公共投資の拡大を掲げている。

道路橋の維持管理については、平成19年度に「道路橋の長寿命化修繕計画策定事業」が施行されたが、都道府県政令指定市についてはほぼ策定を終え、市町村についてもあと2年での策定を求められている。この施策が維持管理の重要性と道路橋の長寿命化という言葉を浸透させてきたことはとても好ましいことであり、これから計画から実施の段階に移行することが期待される。

しかし、決して喜んでばかりはいられない。今世紀に入ってから長く公共事業の削減が続いてきたが、とくに「コンクリートから人へ」の3年間は建設業界に決定的なダメージを与えた感がある。インフラの維持更新には、費用がかかることは当然のことながら、それを実行する人と技術の存在が不可欠である。長い建設不況の中で、多くの建設会社が撤退を余儀なくされ、多くの土木技術者がこの世界から去って行ったのはご存じの通りである。

今、このような状況の中ではあっても、橋梁技術者として国土の強靱化を求める国民の期待に応えなければならない。一度去った技術者を引き戻したり、新たな技術者を育てる努力も必要となってくるが、少ないマンパワーで効率的に補修・補強を行うことのできる技術が求められていることは言うまでもない。そしてその信頼性も高いものである必要がある。この点からこのたび刊行された道路橋補修・補強事例集はまさに時宜を得たものと言えるだろう。

今後、インフラの維持更新にかかる予算措置が手厚くなることにより、大規模な補修・補強が必要な老朽橋の在庫の山が動き出すことが期待されるが、このたび刊行される事例集がこれらの事業が適切、効率的に実施され、信頼の置ける維持管理が達成されることを後押しする一助になることを期待したい。

 

平成25年4月1日

 

一般財団法人 橋梁調査会 審議役 兼 事務局長

前国土交通省国土技術政策総合研究所 所長

西川 和廣

 

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